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千尋's小説

女の子は世界に一人。
だから、彼女は神様だ。




女の子は物心がついたときから島にいた。
島は狭く、半日あれば歩いて1周できる。
海岸から見える景色は360度。
海と雲と、水平線でしかなかった。

島には城があった。
城の倉庫には、保存食や生活雑貨が山のように積まれていて、飢えることはなかった。
一生かけても読み切れないほど、たくさんの本があった。
それが世界のすべてだった。
本に書いてあったのは、全て、人間の話だった。
人間は一人では生きていけない。
そう書いてある本がいくつかあった。
しかし、少女は一人だった。
一人でも生きていた。
笑う事、泣く事。
大切だと書かれてる事が必要ではなかった。
完結していた。
完成していた。

彼女は、人類史において始めての「平均的」な人間だった。
総計一名における統計の平均は、自己と完全に同一である。
だから、何をしても全て正しい。
そして同時に全て間違っているのかも知れない。

女の子は絵を描き始めた。
書物、楽器、絵画。
それらしきものの中で、一番人間を作ることが出来そうな道具だったからだ。
でも、なかなか上手くいかなかった。
何度も飽きた。
別に飽きてもよかった。
季節がひとつ変わる頃には、飽きている事に飽きるからだ。
やがて絵が描けるようになった。
写実的な、風景画というものが自分に向いていることを知った。
あるものを、あるように描いていればいいからだろう。
そこにないもの。
人間を描くのは、大変かもしれない。
と、思った。

女の子はある日、海辺で火をおこしてみた。
本の中に、島に流れ着いた人が狼煙というものをあげるエピソードがあったからだ。
真っ青な空に白い筋が立ち上る。
これは雲と同じものなんだろうかと、顔を突っ込んだら目と喉が酷く痛かった。
あわてて離れると、遠くからそれを眺めた。
「役にたたないな」と理解した。
そうやってひとつずつ、何かを理解した。
理解するという事を、理解した。

女の子はやがて人間の絵を描けるようになった。
彼女は一人の男の子の絵を描いた。
そして、今まで描いてきた風景画にその男の子を描き加えていった。
彼女はそれらの絵を描いた場所に飾った。
島の中で絵にしていない場所はなかった。
全ての場所で女の子は男の子と一緒。
そして、絵を見るたび視線が合う。
でも、女の子にはやり遂げた感慨はなかった。
これは人間だろうか?
考えてみる。
いや…これは人間の絵だ。
動かない、考えない、ただあるだけだ。
「寂しい?」
到達したことで彼女はようやく自問できた。
寂しくはなかった…

女の子は絵を眺めている事が多くなった。
絵の中の男の子を見ていると、不思議な気分になった。
「結婚してみようか」
なんとなく考えた。
本の中に、結婚にまつわる話は非常に多かった。
人が生きていくうえで、大切な事だと書かれていた。
彼女は結婚という制度について、詳しく学習することにした。

あくる日、女の子は結婚をした。
城の中を漁って、ドレスを見つけた。
頭の中で「結婚を誓いますか?」という文字に「はい」と文字で答える。
そして、絵の中の男の子と唇を重ねた。
――油くさかった。
適当に摘んだ花をブーケというものにして投げた。
いつもより食事も多く用意した。一応パーティだった。
でも、ドレスの腰周りがきつくて食べ残してしまった。
女の子はブーケとドレスと残飯を、ゴミ捨て場にした崖に放り投げて寝た。
それで結婚式は終わった。

女の子は結婚式の翌日から自画像を描き始めた。
結婚したのにこちらの世界には一人しか人間が居ない。
だから、画の方に自分を描き込むことにしたのだ。
女の子はすべての画に自分を描き込んだ。
向こうの世界では二人の人間が笑っていた。
絵の中の自分を見るのは不思議な気持ちだった。
女の子にはその感情がよくわからなかった。
それでも、彼女の興味を引き続けた。
彼女は世界に一人、だから彼女は神様だ…
女の子は世界に一人、だから彼女は神様だった。
不思議な事が起こった。
絵の中の二人が動き出していた。
神様はじっと絵の中を覗き込んだ。
絵の中の二人は楽しそうに笑い合っていた。
しかし絵がぼやけていた。
世界そのものが歪んでいた。
「どうしてだろう?」と、女の子は思った。
女の子に不思議な感情が芽生えた。
その感情は、形容する事が出来なかった。
何故あれほどはっきりしていた絵が見えなくなってしまったのか。
絵の中の二人は笑い合っている。
それだけを感じる…
彼女は絵を描き直した。
何度も何度も描き直した。
しかし、悉く同じ結果となった。
女の子はよく解らなくなった。
何もかもよく解らなくなった。

女の子は世界に一人、だから彼女は神様だ。

神様は世界をもっと、ずっと綺麗にしようと思った。
彼女はすべての絵を燃やした。
彼女は城を燃やした。
彼女は、自分の思い出を燃やし尽くした。
最後ニ神様ハ世界ニヒトツ残ッタゴミヲ――
崖カラ捨テタ――



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